大判例

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名古屋高等裁判所 昭和28年(う)955号・昭28年(う)954号・昭28年(う)956号 判決

被告人西山が、原判示の通り、株式会社林碍子店から県営住宅用板碍子を購入する契約も締結して居らず、又納入もせしめていないのに、虚偽の板碍子代金請求書、誓約書、見積書等を作成せしめ、これを岐阜県出納部に提出し、同部の係員をして、林碍子店から真実に板碍子を購入せしめたかの如く誤信せしめ、金百六十五万六千円と十三万六千四百三十六円を各交付せしめ、被告人西山がこれを受領したことは、論旨においても争わないところであり、原判示の証拠によつても十分に認め得るところである。論旨の中には、右の金は建設省から配給された碍子代その他建設資材に充当したという点があるが、建設省から配給された碍子は、岐阜県当局でも明確に認め、これが支払を為した記録も存するが、果して、被告人が前記のような方法で受領した金で、建設省の方に支払われたかどうか極めて疑わしいところである。建設省から碍子等の資材の受配を受け、これが支払を為すことは、岐阜県当局でも認めて居り、若し予算が不足して居れば、追加予算(当時しばしば物価騰貴のため追加予算を組んでいたことは当審証人立野信実の証言によつて明らかである)を組んで、支払を為し得べきもので、建築課長代理であつた被告人西山が不正手段で工面して金策する必要はなかつたのであるから、被告人西山が岐阜県のため前記の金を建設省に対する支払に充当したという主張は、肯認し難い。被告人西山が、右の金を自己の私用に全部費消したことについての証拠もないが、公然と適法な手続で岐阜県のために流用したことも認め難い。被告人西山が建築課長代理として、資材の購入、接待費等に右の金の一部を充当したとするも、前記のような虚偽の文書で、出納係を欺罔し、現金を受領することは、適法でなく、出納係が岐阜県のためこれを為せば、会計法その他の法令に違反するだけであるが、出納係と関係のない被告人西山が同係を欺罔して、金員を受領すれば、その行為は、詐欺罪として問疑すべきものである。若し、論旨のように、被告人西山が、岐阜県の利益になるように、右の金員を使用したとするも、これは結局において、岐阜県に損害を与えるものである。国又は自治体は、予算に基いて、費用を支出すべきもので、資金を擅に流用すべからざるものである。それを認めるときは、国又は自治体の財政を破綻する。支出の責任者が虚偽文書を使用して、流用するときは、詐欺罪ではないが、他の者が支出責任者を欺罔して、支出せしめたときは、自己の私用に供する目的があれば勿論のこと第三者の利益を図る目的又は第三者に交付せしめる場合でも、騙取行為となるものと解すべきである。本件の場合被告人西山が岐阜県の利益を図る目的があつても、岐阜県に損害を与える虞れのあることは前説明の通りであり、出納責任者でない被告人西山の本件金の使用は、適法な岐阜県の支出と認め難いから、論旨の通り、被告人西山の支払が岐阜県のため為されたとするも、同被告人の行為は、不法領得行為と解すべきである。同被告人は、外形の事実を認識しこれを正当視していなかつたのであるから、この行為が詐欺罪を構成するか否かを知らなかつたとするも、詐欺罪の犯意があつたことになる。この点についての論旨も理由がない。

被告人水谷正明の弁護人の論旨第一点について、

論旨の要旨は、原審第三六回公判期日における証人羽根田敏広の証言は、反対尋問が為されていないから、証拠能力がなく、裁判官の羽根田敏広に対する第二回証人尋問調書謄本は、右羽根田証人の反対尋問の為されることを条件として同意したのであるが、反対尋問がないから、右同意は無効であると謂うにある。

被告人水谷正明に対する原審第三六回公判期日において、証人羽根田敏広を前回の公判期日に引続いて、証人尋問し、検察官と裁判長とが尋問しただけで、弁護人と被告人との反対尋問がなく、弁護人から反対尋問の機会を与えられるように請求したところ、裁判長は、合議の上、反対尋問の期日を改めて指定する旨告げて閉廷し、その後公判が幾回も繰り返されたが、弁護人のため反対尋問の期日が指定せられず、反対尋問が為されなかつたことは、所論の通り、本件記録によつて、明らかである。然れども、弁護人並に被告人水谷の側で、右証人の反対尋問期日の指定がないことについて、何等の異議も申立てて居らないのみならず、原審第七八回の最終公判期日において、裁判長が「本件を通じて現在決定留保並に取調未了の証拠があれば、それは全部却下する」旨の決定がなされ、弁護人並に被告人からは、何等の異議申立も為されていないことが、当該公判調書の記載によつて明らかであるから、弁護人並に被告人は前記羽根田証人の反対尋問についても却下されたことにつき、異議がなかつたものと認めざるを得ない。然らば、弁護人並に被告人は、右証人の反対尋問を放棄したものと同一効果があると解すべく、従つて、原審が反対尋問をさせなかつた訴訟手続の違法は、治癒され、控訴審において、これが不服を申立てることができないものと解すべきである。右の理由により、原審が証人羽根田敏広の証言を証拠としたのは、違法ではなく、この点についての論旨は、理由がない。

同論旨第三点について、

検察官が公判廷に証人として呼び出された者を、その証言の直後、その証言に関し、検察庁に呼び出して取り調べることは、当事者主義の訴訟において、妥当ではないが、取り調べたことだけを見て、直ちに違法であると謂うことはできない。羽根田敏広は、昭和二十六年五月十六日の原審第二三回公判期日において証人として尋問せられて居り、昭和二十六年五月二十二日岐阜地方検察庁に呼び出され、右証言と異る供述を為し、その結果、昭和二十六年五月二十二日附の検察官供述調書が作成せられていることは、該供述調書の内容によつて明らかであるが、その際、検察官が偽証罪として起訴又は勾留すると脅迫したことは認め難くその他強制拷問があつたため不任意の供述をした疑がある点を認め難く、而かも、右供述調書は、原審第七一回公判期日において、取調請求が為され、被告人及び弁護人はこれを証拠とすることに同意しているので、右供述調書が所論の通り、証拠能力がないものとは、認むることができない。論旨は、理由がない。

(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 赤間鎮雄)

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